売れた本をいくつか読んでみた。
読もうとして、本が売れない時代だということをあらためて実感した。何がベストセラーなのかということ自体が、分からない。最も知られているはずのものを調べなければならないという、滑稽な状況である。 この数ヶ月を例にとっても、熱心な読書家とは言えない人間(僕を含めて)が知っているベストセラーは多分、「もしドラ」だけだろう。 ●冲方丁 『天地明察』 史実考証が綿密で、文章は奇をてらわず丁寧で、好感の持てる小説である。好感は持つが、面白いか面白くないかで言うと、あまり面白くない。それと長い。 暦、数学、碁。とにかく題材が地味。その足かせをつけたまま話を盛り上げようと最大限の努力をしたけども、大成功はしなかった……という感じ。 ただまあ、こういう本もあっていい。すべての小説で、人が死んだり世界が滅んだりする必要はない。僕の好みではない、というだけだ。「天地明察」が売れるということは、世の中は僕が思うほどには殺伐としていないということか。 ●夏川草介 『神様のカルテ』 全編ヒューマニズムにあふれた、いわゆる「臭い」作品なのだが、その臭さをあまり感じさせない。不思議な魅力をもった好編。しょっちゅう現れる冗談に「どうだおもしろいだろう」というドヤ顔感があり、それがちょっと鼻につく。 ●湊かなえ 『告白』 久々に、単におもしろいのではなく「すごい」と思う小説に出会った。個人的には、東野圭吾のいくつかの小説以来である。 女性教師の娘の「事故死」。それが事故死ではなく、生徒による殺人であることを暴く「告白」。教師の告白に端を発し、次々と行われる主要人物の告白は、一方は過去へと向い、それぞれの家庭のゆがみと、そこで培われた悪意をあらわにする。そしてもう一方は現在進行していることを描き、登場人物たちはそこで悪意をさらに増幅させ、より凶悪な犯罪へとらせん状に向かっていく……。 壮絶だ。 ●和田竜 『のぼうの城』 何かの能力が突出した特異なキャラとか、大げさなセリフ、少々無理な展開。この作者は漫画家か、漫画原作者になりたかったのではないか。それらの漫画的な表現は、画力によって強引に納得させられなければ、要するに漫画でなければ、やはり違和感がある。 あるいは見方を変えれば、荒唐無稽な娯楽小説にしたいのか、史実を重視したスリリングな歴史小説にしたいのか、迷っているようにも見える。 いずれにしても今のままでは、一言で言って嘘くさい。 (追記)いま知った。映画の脚本が土台だそうだ。納得。小説らしからぬ小説であることが、すべて腑に落ちた。
by sakichi_i
| 2011-06-22 15:34
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