戦慄する――と裁判長も言った事件

去る水曜日、地裁でおこなわれていた北九州監禁殺人事件の判決が下された。
両被告に死刑。
被告の一方、松永はすでに控訴を口にしている。

戦争中の大量虐殺、大規模テロ、天災をのぞけば、知っている限りのあらゆる犯罪の中でも、僕はこの北九州の事件が最も恐ろしい。
正確に言えば、そういった戦争中の巨大犯罪にも匹敵する恐怖を覚える。
原爆による惨状や、アウシュビッツの悲劇を目の当たりにした時、我々はどこか 「戦争だから仕方ない」 と精神的な逃げ道を求めることがないだろうか(それが正しいかどうかは、ここでは触れない)。
北九州の事件は、そういう逃げ道が無い。

2~3年前だったか、特に見るでもなくTVをつけていた僕の耳に、聞き間違いではないかと思うような言葉が入ってきた。
次第に明らかになってきた、この事件の内容を伝えるニュースだった。
僕は半信半疑のままニュースを聞き続け、聞くにつれ呆然とし、そしてそのニュースが終わった後凍り付いたまましばらく画面の前から離れられなかった。
まだ久米さんがキャスターをやっていたころの 『ニュース・ステーション』 だった。

僕は混乱した。
自分の中で、事件に対する説明がつかない。
それから数日、その回答を求めるためにネットを徘徊した。
報道された内容以外に隠された事実があるのではないかと。
しかし、事件の見方を根本的に覆すような秘密は無かった。
殺害時の状況など、ニュースだけでは分からなかった事件の詳細を知り、さらに気分が暗澹となっただけだった。

肉親を殺した、ということ自体が問題なのではない。
そういう事件は、現代では珍しくない。
少々次元は違うが、戦国武将であれば親兄弟が相争うことは日常茶飯事だ。
いずれにせよそれは、殺す方の自発的意志でやっている。
本人としては自分なりに、多かれ少なかれ正当性があると思っている。

北九州の事件のように、強制されたこと以外に肉親を殺す理由が無いような事件は、生まれてこのかた聞いたことがない。

松永が恐ろしいのではない。
もちろん目の前にいれば恐ろしいだろうが、僕が 「あらゆる事件の中で最も恐ろしい」 と思ったのはそこではない。
宅間もいた。小林薫もいた。
現実問題として、異常者は世の中にいる。

人間は強制されて、肉親を殺すような精神状態にまで追い込まれることがある、という事実に僕は戦慄する。
それが、この事件を知って以来ずっと僕を怯えさせている。

事件が発覚した当時、関連の掲示板にこういう事を書いた人がいた。
「人間というものは長期間虐待されていると、ああいう精神状態に陥ることがある」
その人自身も、いじめを受けていたと言う。
もし北九州の事件が、極端に異常な人間と極端に異常な状況の生み出した偶然の産物でないとすれば、悲しいとしか言いようがない。

最初の一人が殺される前、緒方家には大人が6人いた。
被告の緒方純子がほぼ洗脳状態にあったとしても、あと5人の大人がいた。
なぜその時点で協力し、松永を追放しなかったか。
あるいは警察に届けなかったか。
異常者松永が存在していても、協力者がいなければ事件は拡大しなかった。

だから僕は、死んだ5人の大人達を悼むより、怒りを覚える。
殺人に協力したり、死体遺棄に協力した人も多い。
被害者であると同時に、加害者でもある。
彼らが松永に抵抗せず、この忌まわしき事件を人類史に残してしまったことに対し、怒りを覚える。

自分が同じ状況にならなければ、その心境が分かることは永遠にないのかもしれない。
だがもし僕がそうなれば、まずは松永を殺す。
むしろそうである、と自分を信じたい。
そう思わなければ、いまだにこの事件に対する恐怖を和らげることができない。

事件の詳細については書かないし、書きたくもない。
北九州・少女監禁、電気ショック殺人事件
asahi.com
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by SAKICHI_I | 2005-10-02 13:09 | その他 | Comments(2)
Commented by ましーん10号 at 2005-10-04 16:23 x
わけわかんない事件ですが、佐吉さんのこの記事を読んで、そういうことか!と思いました。
ここまでになるまでに犯行を防げなかったのか、残念でなりません。
Commented by SAKICHI_I at 2005-10-04 21:34
ましーん10号さん初めまして、コメント&トラックバックありがとうございます。
僕はこの事件のニュースを見るたび、殺された大人達の責任について考えざるをえません(緒方は言うに及ばず)。何十人もの兵士に、銃を向けられて強制されたわけではないですから。
書きつつまた陰鬱な気分になりました(;´Д`) まさに悪夢です。


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