恐れ入りました:宮部みゆき 『模倣犯』

宮部みゆきという小説家の本を僕が読むのはこれが2作目。
数年前、確か 『模倣犯』 が映画化された時だったと思うが、「宮部みゆきブーム」 のようなものがあった。
その時できれば 『模倣犯』 を読みたかったのだが、この小説はまだ文庫化されておらず、厚くて重くて高い単行本を買うほどには読む気が無かった。
で、あまり深い考えなしに 『レベル7』 という作品を買って読んだ。
読んで、あまり大した小説ではない、と思った。
理由の一つは、緊張感を高めようとしているのかどうか、叙述が少々大げさで、登場人物のセリフも芝居がかっていて現実味がないこと。
それから、事件の謎解きの部分はすべて「レベル7」 という架空の薬品が説明することになっており、ご都合主義であるという印象を受けた。
以来、宮部の小説は一冊も読んでなかった。

だがその後も、宮部人気はおさまる気配がない。
半年ほど前、 『模倣犯』 が文庫化された。
そういえばもともと読もうとしていたのはこれだった……と思い出し、一応読んでみることにした。
見切りをつけるのは、代表作を読んでからでもよかろうと思った。

結果、完敗しますた。

他の人はどうか知らないが、僕がある作品をつまらん、と思う時には優越感が少々ともなう。
それが人気作家だった場合、「この程度かゲラゲラ」 的な勝ち誇り感が発生するのである。
(この事も客観的に見ればゲラゲラではあるが)
僕は 『模倣犯』 をそういうつもりで読み始めた。
少なくとも途中まではそういう部分が多々あった……が、読み終わった今はそうではない。
没頭してしまいますた(ミ´∀`)
久しぶりに、本当に久しぶりに、わざわざ時間をつくって本を読んだ。
もう何年も、どんなに暇でも電車の中以外で本を読むことはなかった。

なにが優れているか?
「真相を知りたくなる」「次の展開がどうなるか気になる」 という欲求を読者にもたせるという点において、それがこれほど高いレベルで成功している作品を、僕の(貧弱な)読書歴のなかではほとんど思い出すことができない。
映画とドラマを含めてもいい。
それでも、もし順位をつければ 『模倣犯』 を低くない位置に置くだろうと思う。

細かい分析はしない。
とてつもなく長い小説なので、そんな事をし始めたらきりがない。
ただ一つ、僕がこの小説の成功の要因を挙げるとするなら、「網川」 という “魅力的” な悪役を作ったことにあると思う。
頭がよく、ずる賢く、しかし悪逆非道のこの男が、いかにしてその正体を暴かれ、裁かれるか。
網川が憎たらしく描かれれば描かれるほど、読者はそれに対する興味を喚起される。
それが、文庫本の4・5巻のストーリー展開だ。

さて、褒めちぎったんであとは文句を書く。
最大の欠点は、とにかく、とてっつもなく  長  い  ということ。
厚い文庫本で5冊。叙事詩でも年代記でもないのに。
しかしその長さに必然性があるのならいいのだ。
僕にはそうは思えん。
この宮部という人の文章、少々冗漫である(冗談で漫画のようだということではない)。
「A」 ということを伝えるために、「Aである」 という文章で終わらない。
「AかB、またはCの可能性もあるがこの場合Dかもしれない。Aの可能性が高い。後に明らかになったがやはりAだった」
言ってみれば文章が水増しされ、文章が水ぶくれしている。
一つの意味を伝えるためにいろいろな表現を加え、文を豊かにするのはもちろん意味がある。
しかし宮部さんの場合はそれだとは思わない。
例えば事件の目撃者が出てくる。宮部さんは彼について、いつもは他の道を通るのにその日に限ってなぜその道を通ったか、家族構成から学校での部活のことから延々と説明する。
全然必要ないのである。
いや、必要であるように思わせられない、と言うべきか。
文章そのものに魅力があれば、そういう寄り道もまた楽しく読めるかもしれないが、宮部氏の文章はあまり切れ味が良くない。
気の利いた言い回しが無い。
読んでいる途中で 「あー、また水増しが始まった」 と分かる。
それはいいから、さっさと話を展開してほしいのである。
このテンポの悪さは、大きな欠点だ。

これが宮部小説の常態なのか、 『模倣犯』 に限ってのことなのかは、分からない。
僕には、枚数を増やすために無理やり必要のない文を加えたとしか思えん。
同じ小説であるために、全2冊でいい。これで贅肉のない、シャープな作品になる。

僕が 『模倣犯』 をおもしろいと思ったのは、文章が優れているからではない。
ストーリーそのものがおもしろいからだ。
言ってみれば、脚本は良いが役者と演出は平凡なドラマと同じようなもの。
その長ったらしさのため、文庫3巻までは面白さと退屈さが同居している。
4巻以降は面白さが圧倒的に上回る。

そういう大きな不満がありながらも、僕は 『模倣犯』 を非常におもしろい小説だと思う。
けなす部分の方が結果的に長くなってしまったが、本当にそう思う。
ま、それは売上にあらわれているので、あらためて僕が表明するほどの事ではない。
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by SAKICHI_I | 2006-07-11 17:58 | その他 | Comments(2)
Commented by 宮部みゆきはツマラナい at 2014-12-04 20:57 x
謎解きを小出しにしてダラダラとして、引っ張るだけ引っ張る長ったらしい作品ばっかり。イライラさせられる。こんな作家のどこが一流品なのかね~
Commented by SAKICHI_I at 2014-12-09 01:42
僕もこのエントリーで書きましたように、少々長ったらしいことは確かですね。「模倣犯」以外の宮部さんの小説をいくつか読んだ限りでは、その人気に値するほど面白いとは思いません。


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