湊さんの作品を読むのは「告白」についで2作目。もしこの2作に共通するものが作風だとすれば、それがだいたい分かったような気がする。
読者の野次馬根性を喚起して小説に引きつけることが、非常に上手い。 各家庭・人間関係の暗部を、醜さをこれでもかと見せつける。こういう人間とこういう人間の関係は確かにこうなるだろうな、と思わせる絶妙の現実味。それがこちらの、小説にでもならなければ決して他人には分かることのないものをのぞき見ているような、ワイドショー的好奇心を引っ張り出す。登場人物は一様に人間的欠陥があり、利己的。その事も、「こいつよりは俺はマシだろう」という優越感を起こさせる。 特に遠藤家の彩花の描写が秀逸。このいかれた娘が切れた母親に首を絞められた時は、黒い爽快感さえ感じてしまった。 遠藤家の隣家のおせっかいなおばさん、ええと小島さんだったか、の腹黒い言動に顔をしかめながら、読んでいるいるこっちもおばさんと同じ興味で読んでしまっているという矛盾。苦笑させられるが、本当に上手い小説だと思う。 以下、不満。やはりあの結末には満足できない。この小説が単に読んでて面白いだけでなく、すごい小説と言われるためには、あれではいけないと思う。 彩花が口にした「坂道を転げ落ちる」(だったか)という言葉にみな目から鱗が落ちたような印象を受け、何となく解決を与えられたような雰囲気になってしまう。この言葉、大層なことを意味しているわけではない。単に、「不満が蓄積して切れる」を別の表現にしただけだ。こういう少々詩的な表現をしただけのことで、そのことを正当化し免罪してもらったような気になってもらっては困る。しかもそれを言うのが、3日に1回ほど「坂道を転げ落ち」ている彩花だ。お前が何でしたり顔で分析してんのか、という話である。 最後の小島家での会合以来、主要登場人物達は良心に目覚めたようになり、おこないを改める。これまで発生してきた問題の根本的な解決方法を与えられたわけでも何でもないのに、である。 我々読者が——と言って悪ければ、僕が——彩花に対して延々とためこんだストレスは解消されることなく、うやむやのうちに話は終わる。母親が首を絞めたことは、確かにある程度のストレス解消になった。しかし彩花のふてくされた態度は直らず、それどころか「おまえらみな坂道病だ」と他人に説教をする存在になってしまう。遠藤家母親の無力、父親の臆病、小島のおばさんの腹黒さ——それらのもの全てに対するストレスは行き場を失う。 こういう終わり方をするぐらいなら、希望のない結末であった方がよかったと思う。例えば、母親が彩花を殺して終わる。そうすれば、高級住宅街の住人が抱える空虚なプライドをもっと浮き彫りにできただろう。残酷話にはなっただろうが、そう思う。
by sakichi_i
| 2011-07-28 18:07
| その他
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Comments(8)
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ちらと立ち寄らせていただきました。夜行観覧車の読後,これに皆はどのような感想を持つわけ?(既に苛立ち状態)と思っていたところ,まさにこの心境を代弁してくださったかのようです。
ここまで彩花というバカ娘にストレスをためこまされたがために,話の本筋までどうでもよくなっている始末。これはある意味,こんな人物を創りだした作者の勝利?と,さらに不快になったりもしています。
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通りすがりさん、コメントありがとうございます。レスが遅くなってすいません。
そういえばこの小説、ドラマ化されるんですね。 この小説はおもしろいとは思いますがやっぱり最後に収拾ができてないと思います。読んでる時「彩花問題」が一番の関心でしたが、まさか放置したまま終わるとは思いませんでした。 ![]()
好きな方には申し訳ないけれど、私は結局湊かなえは「風呂敷を敷くのがうまい人」とゆう感想しか持てません。
広げたんならもう少しうまく畳んでほしいものです。
えみぞうさん、初めまして。コメントありがとうございます。
「大風呂敷を広げる」の風呂敷ですね(笑)「夜行観覧車」はまさに、風呂敷を結べなかったパターンだと思います。 ただ僕は、湊さんの代表作の「告白」は好きなんですよ。あれは非常によく出来てると思います。 ![]()
通りすがりのもやもやんです。
実はたった今、読み終えた夜行観覧車。 期待外れの結末にどこにこの外れ感を持っていっていいかと落ち込んで(笑)ました。 告白が良かっただけに、残念。まさに結末は坂道を下っていく感じでしたよ。 ドラマは見ていませんが、原作通りの放置的な終わり方だけは避けてほしいものですね。
もやもやんさん、コメントありがとうございます。
僕が思いますに、テレビドラマの方こそ「放置的な終わり方」をする可能性が高いのではないかと。最後にうまくまとまらずに視聴者を落胆させても、そこまで視聴率を取れれば勝ちということでしょうから。 フジの「アンフェア」とか、そうでした。 ![]()
私はまだ読んでないのですが、湊かなえさんの作品は本当に、面白いので、次は読んでみたいです。
kanakoさん、コメントありがとうございます。レスが遅くなってすいません。
「まだ読んでないのに面白い」ってちょっと変だと思いましたが(笑)、『夜行観覧車』のことですよね? 僕も面白いと思いました。
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